サステナビリティスペシャリストを目指せ

最近上場企業に求められる情報開示は非財務情報が中心になっていると実感している。非財務情報の内容をどうするか、どう定量的に把握し開示するかはIR担当者の大きな課題だ。IR担当者以上に経営者も自社が時代に沿ったサステナビリティ経営をすべきだと考えているがノウハウがまだ少ない。開示に関する基本的なルールが確立している途上で上場企業の取り組みが誤解を招くような開示になればESGウォッシュのそしりも免れない。財務、非財務が連携の取れた整合的で正確で信頼性を備えた情報にするのは重要だが難しい。

今後、気候変動に関する情報開示、人的資本情報の開示、人権方針の開示、生物多様性を含む自然資本の開示が進む。多くのプライム銘柄が統合報告書やCSRレポート、ESGデータブックを発行している。私も企画段階で入ることがあるが、何を開示すべきか、どう開示すべきかは非常に悩ましい。

開示のスケジュールにも問題がある。株主総会終了後に有価証券報告書でサステナビリティ情報が開示され、その後、統合報告書などでESG情報を中心とした非財務、財務情報の開示が続く。この流れでは株主にとって重要な情報が株主総会後に開示されてしまい、IR担当者にとっては、有価証券報告書と統合報告書などの作成と、二度手間になっている。米国では上場企業の時価総額の構成割合は、有形資産価値より非財務情報に基づくと思われる無形資産価値の方が圧倒的に大きいと報告されている。今後、有価証券報告書に統合報告書の内容を含めて情報開示を行い、その上で株主総会を開催すべきだろう。必要であれば、中間期に最新情報を開示すればよい。

最近、東京大学で文理融合し、生物多様性や気候変動などの人材を育成する課程を新設するとの報道があった。私自身、大学の文系学生にAIの講義もしているが、学生たちの前向きな学ぶ姿勢に感心する。サステナビリティスペシャリストは文系、理系にまたがる勉強が必要である。サステナビリティの専門家は足りない。世界経済フォーラムの「仕事の未来レポート2023」では、2027年に向けて、最も成長する仕事第1位は機械学習のスペシャリストであるが、第2位はなんとサステナビリティスペシャリストである。注目されているのに人がいない。企業もそういう人材に注目し、経営戦略にサステナビリティを組み込み、正確かつ透明性のある情報を提供することが必要だと考える。